これまでの高等学校の「総合的な学習の時間」が、文部科学省の学習指導要領の改訂により、2022年度から「総合的な探究の時間」に変わります。星の杜中学校・高等学校ではカリキュラムに「総合探究」を設け、海星時代から、すでに生徒たちが主体となりSDGsに関する取り組みを始めています。
 ここでは先生たちに、今後の教育の場に「なぜ探究学習が必要なのか」また星の杜が積極的に推進する探究学習とはどんなものなのか、座談会形式でお話しを聞いてみました。

小野田 私は生徒たちにこの中学校、高校を卒業するまでに、社会との接点をできるだけたくさん持って卒業して欲しいと思っています。ここ最近、子どもたちの自己肯定感の低さが取り沙汰されていますよね。社会に出ても自分は役に立つのだろうか、必要とされていないんじゃないか、そうやって社会に出ることに対して、どこかマイナスのイメージを持っている子が少なくありません。学生時代、社会との接点の少なさから、そんな思いを抱いてるのかもしれません。

社会で求められる力の育成が探究学習には求められている

佐藤 そこで必要と考えたのが探究学習ですね。文部科学省は2022年より高校において「総合的な探究の時間」を新たに実施することを決めましたが、星の杜では、海星時代の3年前から探究学習に力を入れたんですよね。
小野田 そうですね、私は自己肯定感の低さの要因の一つに、学校教育も関わっていると思っています。これまで中学校、高校の教育って、大学の受験合格がゴールになりがちです。大学卒業後は本人任せになってしまう。それはちょっと無責任なんじゃないかと思います。多感な13歳から18歳までの大切な時期に、社会と断絶した場で、大学受験のための教育だけで本当の良いのだろうか?もっと在学中に社会と関わりを持つことで、生徒が大人になり、社会に出たときに役立つ教育があるのではないか。そんな思いのもと、生徒と社会との接点を作るために探究学習を始めました。その第1弾としてSDGs探究をスタートさせたのです。まずは社会で起こっている問題に目を向けてもらい、それについて考えてもらいます。社会問題を自分ごととして捉えて、社会に出たときに直面する問題へのアプローチの練習にしたいと思っています。ちなみに、これまでの総合学習の時間ではどんなことを行っていたんですか?

佐藤 ミッションスクールとしての教えなどが主でした。
舩越 私自身、子どもの頃の総合学習といえば、調べ学習や発表、校外学習というのがほとんどでしたね。
小野田 学校によっては総合学習は1週間に1コマ(50分)しか確保していない場合も少なくありません。その時間は読書に利用したりと、積極的に活用していなケースも見受けられます。佐藤先生はSDGsの探究として、実際にどんなことを行っていますか?

SDGs探究から見えてきたこと

佐藤 まずはSDGsへの理解から始まります。その課題に対して、社会問題の発掘・分析をしていきます。すると、自分の生活と照らし合わせて、身近なところにも問題解決に向けた糸口があることに気づきます。
小野田 生徒たちはどうやってSDGsの17の目標から、自分たちの身の回りの問題を結びつけるんですか?
佐藤 17の目標から見出す生徒もいますし、反対に自身が気にかけている問題を先に挙げる生徒もいますね。でもそうすることで、社会問題を自分事として捉えられるようになるんですね。その後はカテゴリー毎にグループに分かれ、問題解決に向けて探究します。場合によってはフィールドワークとして民間企業や自治体などへ赴き状況の共有から意見の収集なども行います。

舩越 2年目を迎える生徒たちは探究学習に慣れてきてますよね。
佐藤 そうですね。グループメンバーの考えの違いをしっかり認め合い、また一方で自分も意見を出し合うことで、よりよいものを作っていくという習慣ができています。そういった効果も探究の一つの成果だと思います。また、グループで行うからこそ、多様性や他者の考えを尊重することを理解し、それぞれの得意な分野において力を発揮しながら探究学習に取り組めるのもメリットですね。グイグイ引っ張る子、絵の上手い子、プレゼン資料が得意な子、それぞれが得意な分野で頑張っている姿が見られます。

舩越 生徒自身がテーマ・目的を決め、その課題を見つけ、その解決方法を検討し、それによってどんな効果が期待できるかを考え、さらにプレゼンも行います。プレゼンについては各グループで様々な工夫がみられました。
小野田 探究学習を取り入れる前と後では、生徒たちに何か違いは見られますか?
佐藤 ある生徒が、地元の伝統工芸に問題意識を持っていて、それに関するシンポジウムに参加し、自分の考えを発言をしたんですよね。その後は地元のイベントに参加して、地域の人と盛り上げたという話しがあります。私たちは成功するかどうかよりも、そうやって身近な問題に目を向けて行動することが大切だと思っています。そういう生徒が増えたなと思いますね。
小野田 社会に出ると、大小さまざまな問題に直面します。問題解決の連続なんですよね。仕事もそうだと思います。子どものうちから問題解決に向けた練習を続けていくのは大切ですよね。

探究学習に取り組む生徒たちの変化

佐藤 こんなエピソードがあります。校内に、生徒が使えるコピー機が無いという問題に対して行動している生徒がいます。導入に向けて、ひと月あたりの使用量を調べて、1枚あたりにかかる経費を算出し、予算内で収まるかどうか検討しています。このように、ただ「コピー機が欲しい」ではなく、導入に向けて主体的に行動しているんですね。
小野田 会社では当たり前かもしれませんが、生徒自身がコストを算出しているんですね。
佐藤 こういった考え方って、探究学習だけじゃなく、学校生活やその他の教科、プレゼンなんかにも表れているんですよね。
小野田 プレゼンのやり方も教えているんですか?
舩越 作り方はもちろんですし、目的があって、課題があって、それに対する解決策、それによってどんな効果が期待できるか、そこまで盛り込むように教えています。発表の場ではパワーポイントによる資料を用いて自分たちの考えを伝えますが、どうしたら人に伝わるか、そのための段取りまで学んでもらいます。

星の杜が目指すのは“チェンジメーカー”の育成

小野田 本校が掲げているスクールミッションはチェンジメーカーの育成ですが、そのための探究学習とも言えます。まず普段の生活の中で起きている問題に対して「これでいいのかな?これって何かおかしい?」と疑問を持ち、解決してみようと思うことが大切だと考えています。このように、問題に対して疑問を投げかけ、そしてその解決に向かうために、周りを巻き込みながら行動ができる人をチェンジメーカーとしていますが、このチェンジメーカーになるための訓練が探究学習で、これこそ世の中に出たときに必要な力なんだと思います。

探究学習から学んで欲しいこと

小野田 探究に留まらず、研究にまで目を向けていけるようになって欲しいと思っています。自分で何かを発見する意欲、そして喜びって、学習においてはすごく大切なことですよね。自分の興味・関心のあるものって何なのか、ということは、この時期に知っておいて欲しいと思っています。自分の関心事や得意なことが、例えば大学選びの基準になれば、偏差値だけに縛られな
い進路選択ができると思います。今は探究という形でカリキュラムを組んでいますが、将来的には研究までできるといいなと思っています。
佐藤 卒業生の一人で、その生徒は自動車が好きだったんです。大学入試の際に、3600字くらいの論文があったのですが、自身が好きな自動車の未来を考えて論文に書きました。こういった例のように、好きなことを見つけられて、それについて論文を書くことができる。こういった力を付けられたことはとても嬉しいですよね。

これからの探究学習で生徒に期待する先生たちの思い

舩越 テーマをSDGsに限定せず、生徒自身が好きなものを突き詰められるようになって欲しいと思いますし、探究学習がそういった機会になればいいと思っています。今は調べ学習や質的データの分析だけですが、将来的には統計的手法を用いて、量的データをもとに、分析ができるようになると、さらにいいなという思いがあります。そうすることで、根拠をもとに発信できるようになると思います。

佐藤 諦めない気持ち、好きなことだから頑張れる気持ち、社会に出たときに挫けずに、自信を持って生きていける力を養って欲しいですよね。例え意見が食い違っても、別の道を提示して取り組める力。完全に親の目線ですが、社会に出たときに頑張っていけるだろうって、思える生徒になって欲しいと思いますね。自分のやりたいことが全うできるような人生を歩めるようにしたいと思います。
小野田 お二人のおっしゃった通りだと思います。社会に出て活躍するための準備を徹底的にしてあげたいと思います。そして好きなことを発見できて、それについて追求のできる中学・高校生活になるようにしたいです。卒業したらそれきり、ではなく進学後や就職後までを見据えた教育をしたいと思います。

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